生薬の品質

 漢方薬は料理にとても似ています。おいしい料理を作るには良い材料を揃え下ごしらえをして、手順を間違わないように調理します。同様によく効く漢方薬を作るには原料となる生薬を吟味し、下ごしらえをきちんとして調合し、正しい方法で煎じることが必要です。

 漢方専門薬局博濟では生薬にとことんこだわっています。生薬の形状や味、香りを吟味し、どこで生産されたものかも調べています。例えば、ある生薬では日本の奈良産のものが最上であるとされています。しかし、コストの問題から最近では奈良産の種を中国に持っていって生産するといったことがおこなわれています。博濟ではこういった場合でも奈良で生産されたものを使用しています。

 また生薬はよりよい効果をあげるためには下ごしらえをしたほうが良い場合があります。かなり手間がかかりますが博濟では決して手抜きをせずにおこなっています。

 正しい煎じ方もとても大事です。生薬によってはあまり長い時間煎じない方がよいものもあります。博濟ではそういった生薬は別の袋に入れて最後の数分だけ煎じていただいています。

 最近では漢方薬というと粉状のいわゆるエキス散が用いられることが多くなっています。しかし博濟では上記のようにいい生薬を用いてより良い効果を上げるためになるだけ煎じ薬をおすすめしています。




いい生薬とは?

 生薬の良否鑑別というのはなかなか難しい物です。確実に鑑別できる物ではありませんが常に良いものを使用しようと考えています。そして疑問に思ったことは問屋さんにどんどん質問しています。これだけでもずいぶんと違ってくるのです。

 いい生薬かどうかの鑑別点をいくつかあげてみましょう。まず第一に野生と栽培の問題があります。野生とはまさに自然の中で育った生薬です。昔から良いとされる産地の野生品はやはり効目が良いことが多いのです。代表的な生薬に人参があげられます。

 一般に朝鮮人参と言われているこの生薬の野生品は滅多にお目にかかれません。北京の有名な同仁堂薬局という薬屋さんの二階にはひげ根の一本一本まで丁寧に掘り起こした野生の人参が売っていますが、一本200万円くらいします。その分効果もすばらしいものがあると言われていますが実際のところはよくわかりません。なにせ高くて使うことができませんので、、それはともかく、残念ながら野生の生薬は安定した供給が難しいので実際に使うことができる品種は限られています。

 次にあげられるのは生薬の形状です。大きさ、形、そして状態ですね。昔に比べて最近の生薬は小ぶりの物が増えてきました。生産が間に合わないのか、コストの問題なのか十分に大きくなる前に収穫しているようです。これはまことに残念と言わざるを得ません。やはり良い生薬という物は大きくて目がしっかりと詰まっています。痩せていたりいびつな形をしていたり中がスカスカなものは駄目です。ただし、野生品については栽培品より通常は外見は劣ります。

 最後に味と香りがあげられます。その生薬独特の味と香りがしっかりとあるものが良品です。数多くの生薬の味を見ていると中には何の味も香りもない生薬にでくわすことがあります。博濟ではそのような生薬はけっして使用ません。



産地って大事なの?

 食材でも有名な物には地名がつくことが多いですよね。松阪牛、魚沼産コシヒカリ、静岡茶、愛媛みかん等々、中には偽物まで出現しているものもあるようです。その地方の風土、気候がこれらの産物にとてもマッチしているからでしょうね。生薬にも全く同じ事があてはまります。

 ですからどの生薬がどこで生産されたかはとても重要なことなのです。「川キュウ」という生薬は本来は「キュウ窮」と称していましたが、中国の四川省産のものが有名であったために川キュウの名が一般的になりました。このような例は他にもたくさんあります。

 他にも注意すべき点があります。同じ生薬名なのに日本と中国では違う植物であることがあります。もともと中国から伝わった生薬が日本にはないために代用品が使われたりしたためと考えられます。こういった場合は流通が盛んになった現在では中国で使われる生薬を使うべきですが例外もあります。

 昔の日本の名医が考案した処方を用いる場合、昔の日本の名医が用いた漢方薬の使い方を参考にする場合などです。これらの場合、その名医は日本で使われていた植物を当然用いていました。ですから現在でもその植物を使うべきといえます。

 博濟では生薬の産地にも気を遣っています。日本の使い方なのか、中国での使い方なのかもきちんと区別し使用する植物も決定しています。
 
 ところで、漢方専門薬局では普段生薬は問屋さんから仕入れています。仕入れた生薬は綺麗に裁断され袋詰めされています。ですから薬局にいるだけではその生薬が実際にはどのような植物なのかよくわかりません。またどのように栽培されているのかもわかりません。これは漢方薬の専門家としては少し情けないですね。

 博濟では機会があればなるべく生薬の植物全体を観察しようと努力しています。ありがたいことに、博濟の知り合いにやはり生薬にこだわりを持っている友人スイラン先生がいます。(小田原市在住)スイラン先生はとても行動的な方で、しょっちゅう問屋さんや植物を研究している機関に出かけていきます。スイラン先生に誘われては博濟でもそういった問屋さんや研究機関へ見学に出かけています。そういったところではやはり生薬が好きな方がいらして、貴重な生薬の話、栽培の苦労などいろいろな情報が得られます。

 先日見学した奈良の問屋さんではお話だけでなく生薬を生産している農家まで連れて行っていただきました。そして実際に生産している農家の方をお話をする機会が得られました。こうして得られた情報も良い生薬を選ぶことにとても役に立っています。

 繰り返して言いますが、良い生薬を使うことがとても大事なのです。博濟では常に良い生薬を求めて努力しています。









煎じ薬の方がいいの?

 前ページにも書きましたが最近はエキス散の漢方薬がずいぶん使われるようになりました。エキス散の長所は携帯や服用が簡単なことです。正しく用いれば良く効きます。

 それに比べて煎じ薬は毎日煎じなければならず味や香りもエキス散より強いことが多いです。しかし、どちらの方が効果があるかといえば煎じ薬のほうが優れていると断言できます。これには良い生薬を用いてきちんと下ごしらえをし、正しい方法で煎じて服用するという条件が必要ですが。博濟ではこれらの条件をきちんと満たした煎じ薬をお出ししています。煎じ方もわかりやすくご説明いたします。

 また毎日煎じることで患者さん自身が「自分は毎日病気と戦っているんだ」という自覚を持っていただけます。この気持ちを持つことで得られる効果ははかりしれません。

 どうしても時間的に煎じ薬が服用できない、症状がそれほど重くない、気軽に漢方薬を試したい、このような方には博濟でもエキス散をお出しいたします。そういったときでも少しでも効果が出るように博濟では様々な工夫を凝らしています。

 しかし症状がつらいので早く緩和したい、他でいろいろな治療法を試したが効果がなかった、といった方には煎じ薬を服用していただいています。例えば、アトピー性皮膚炎などではエキス散と煎じ薬では効き目が歴然としています。

 正しい使い方を守ればどのような形態の漢方薬でも効果はあります。しかし博濟ではより効果がある煎じ薬をできるだけお勧めいたします。


残留農薬が心配な方に

 最近漢方製剤用の生薬に残留農薬が検出されて問題になっています。博濟ではきちんと検査して※安全であると確認された生薬のみを使用しています。

 ただ、検査自体は薬局ではおこなえないので問屋さんを信用するしかありません。博濟では常に問屋さんと連絡をとり、信頼関係を築くようにしています。また生薬について妥協しない姿勢を常にとり、いい加減なことをされないように注意を払っています。

 先日奈良で生薬を生産している農家の方と話をしましたが、必要最低限の農薬は使用せざるを得ないとのことでした。当帰という生薬の畑を見学させていただきましたが、ちょうど種ができようとしている当帰一面に大量のカメムシがついていました。放置すれば種の質が下がってしまうとのことで農薬を使用するとおっしゃっていました。もちろん安全な量の範囲で。

 良い生薬ほど虫がつきやすいのです。害虫との戦いは生産者、問屋、漢方薬局共通の課題です。

 残留農薬についてはどちらかというと中国産の生薬が問題になることが多いようです。上に書きましたように博濟では安全の確認がとれた生薬のみ使用しています。

 ※生薬は安全基準がないものがほとんどです。基本的には安全基準のある朝鮮人参(0.2ppm以下)にそって検査をしているそうです
 


花から種ができつつある当帰。近くで見るとカメムシがいっぱい、、